管理会社の管理撤退という問題

あなたの住むマンションにある日突然、管理会社から管理委託契約を更新しない。管理業務から撤退したいという申し入れがあるかもしれません。

約1割に「契約更新辞退」を通知

「管理委託契約の更新辞退申し入れ」「管理委託契約の解約申し入れ」2018年8月、住友不動産建物サービスは、管理業務を受託する一部の管理組合に、こんなタイトルの文書を社長名で送付していました。

 

そのことに関する記事が<マンション管理新聞>に掲載されましたので、内容をご紹介します。

 

概要は、こうです。

 

管理委託費の値上げ要請と管理委託契約の更新辞退(解約)を申し入れたとのことです。

 

解約を通知した物件は全受託物件の1割に及び、値上げ要請は基本的に「解約以外」の全物件を対象に行ったようです。

 

同様の事はその後も他の管理会社でも行われています。

大手管理会社だけででなく、独立系の中小管理会社でも行われています。

 

人手不足・人件費高騰・不採算物件の増加・・・

現場スタッフ(管理員・清掃員)をはじめとしたの人手不足が続いており、安定的に良質な人材確保が非常に難しい」ことを理由として申し入れています。

 

現場スタッフとして採用の主力となる60歳代が集まらず、新規受注もままならないという声も多く聞きます。

 

管理員の定年延長、募集採用限度年齢の引き上げなどの対策をとっているが、十分な効果が出ていないようです。

 

働きたい高齢者は増えていますが、時給も低く、勤務時間も短いとなれば、高齢者が求める手取り額に手が届かないため、なかなか人材確保が困難な状況は変わらないと思います。

 

現場スタッフが不足すれば、その分、フロント社員にも負荷がかかり、疲弊して、本来業務品質が下がるという懸念もでてきます。

 

辞退を受けた物件の公募に参加した同業他社によると、「よくこの金額で今までやっていたなと感じるものばかりだった」と驚いている。

 

「お荷物になっている管理組合を切りたい。と感じることはある」

「だが、実際にはなかなか切れない」

「親会社の新規供給物件が減っているため、管理受託規模を減らすリスクに配慮するから・・・」

「管理物件の放出は、英断だと感じる」

 

「これまで『どんな案件でも抱えていないといけない。管理組合の無理な要求にも応じないといけない』とする風潮があった管理業界に一石を投じた」

 

こんなことを言う人も

「住友不動産」は5年連続で、全国・首都圏で供給戸数1位の実績を誇っている。

多少物件を手放しても十分な管理物件の新規受託が見込めるから・・・不採算物件を整理した。

 

あなたの住むマンションにも、起こるでしょうか?

ここからは、私の意見ですが

 

「人手不足、人件費高騰、不採算物件の増加・・・」これらの背景は、今後も変わらず、深刻化すると思います。


従って、管理会社が管理受託規模の拡大を求める時代から、規模の拡大は犠牲にしても利益重視の管理会社が増えてくると思います。

 

事実、管理辞退は、他のマンション管理会社でも起こっています。


とすると、ある日突然、管理契約更新辞退の申し入れを受けることがあなたのマンションにも起こるかもしれません。


特に戸数100戸以下の中小規模の管理組合は、気をつけるべきです。

      

そうならないため、そうなっても困らないために、どうしていけば、良いでしょうか?

管理会社へ管理委託している管理組合は93%

2018年の国土交通省の調査によると、93%は管理組合が全部または一部を管理会社に委託しています。


また、分譲時に分譲会社が指定した管理会社に引き続き委託している管理組合は73.1%です。管理会社を変更したことのある管理組合は20.9%でした。


ほとんどの管理組合は分譲時の管理会社に引き続き管理業務を委託しているのが実態です。


管理組合と管理会社は利益相反関係

そもそも管理組合と管理会社は利益相反関係にあります。


管理組合はなるべく少ない費用支出で、日常の運営管理業務や大規模修繕工事に代表される建物設備の維持修繕業務を行いたい。


組合員の管理費・修繕積立金などの費用負担を少なくしたい。


一方、管理会社はコストをかけずに、売上・利益を確保したい。

区分所有者は管理組合運営に無関心

ところが、管理組合側の区分所有者は、管理組合運営に無関心です。


30代、40代、50代であれば、管理組合の運営より自分や家族のことの方が気になります。また、収入面でもある程度見込める部分があるので、管理費・修繕積立金の値上げなどもさほど負担にならないかもしれません。


管理会社の方も、高めに設定された管理費のおかげで、安定した売上・利益を確保することができます。


また、適時発生する建物設備の修繕業務も、割高な見積でも管理組合の承認を得て、大きめの売上・利益が確保できます。


取引先業者からのバックマージン(手数料)も安定した収入源となり、魅力的です。


めったなことで他の管理会社にリプレースされることなく、20年、30年と継続的取引が期待できます。

管理会社の一般的傾向

多くのマンション理事会では、当日になって、議題が管理会社から知らされて、内容もわからずに、議決を求められることが多いようです。下記は、ある新聞記事の中に記述されていた内容です。

 

・管理会社側は通常、マンション内の懐事情を細かく把握。

・工事や役務の発注が必要となれば、下請けとの中間マージンによる利益を狙う。
・理事会が専門的な知見に基づくコスト感覚を身につけ、議論を深めるのは好ましくない。
・こう考える管理会社側は、支出を伴う議案を理事会側に提示する際、即断即決を迫るこが少なくない。
・建物の維持、修繕コストに多くの住民が無関心を続けたために組合が管理会社の『御用組合』と化し、

 度重なる資金流失で財務状況が悪化。
・結果的に資産価値低下を招き、管理会社からも見放されるというケースも珍しくない。

 

確かに、その傾向はあります。

 

意図的なものではなく、管理会社フロントが忙しい、または、怠慢のためかもしれませんが、理事会議案の事前通知はなく、あってもタイトルだけ。

 

議論・審議の前提となる資料が事前に配布されることは、まず、ありません。

 

理想的には理事会開催の2週間前には、議題とその内容を説明する資料が配布されるべきです。

 

それが、あって初めて、理事会役員が理事会に参加する意義が生まれます。

 

提案内容に対する疑問や不明点がはっきりして、議論・審議ができます。

 

老朽化・高齢化が緊張関係を生む

ところが、築30年、50年となり、住民も60代、70代、80代となってくると管理組合と管理会社の間に緊張関係を生みます。

 

築30年、50年となってくると、建物・設備の様々な部分の劣化が進み、修繕範囲が広まり、修繕方法も難易度が増して来ます。おまけに修繕周期も短くなってきます。

 

当然に、修繕費用は嵩みますが、修繕積立金は不足します。

 

一方、住人も高齢化が進み、年金生活者となり、修繕積立金の値上げなどには安々と応じられません。

 

必要な修繕工事は修繕範囲が縮小されたり、延期されたりするようになります。

管理会社にすれば、期待した工事売上が得られなくなります。

 

管理組合は、不足する修繕積立金を少しでも補うために、管理費を値下げして、その分修繕積立金に廻そうと管理会社に値下げ交渉を行います。

 

そうなると管理会社は工事売上も期待できないし、管理費の値下げ要求もあり、「うまみ」がなくなります。おまけに住人が高齢化することで、孤独死を始めとした予期せぬトラブル対応に巻き込まれる危険性も高まります。

 

それなら、撤退して、「うまみ」のある管理組合へシフトしようとの動きが活発化してきます。

避けられない分岐点

老朽化と高齢化に伴う、今述べた経緯は避けられません。

 

築20年を超えたら、管理組合は自分たちの住むマンションをどのように運営していくのか考え、準備を始める必要があります。

 

修繕積立金を大きく積み増し、管理会社に値下げ交渉などする必要のない財務体質とするのか?

 

自主管理を目指し、管理会社に頼らなくてもよい体制とするのか?

 

マンション管理士などの専門家を活用し、管理組合、管理会社、マンション管理士の3者がWinWin関係となる体制を構築していくのか?