建物・設備の現状把握

マンションにおいて、長期修繕計画の作成や大規模修善の検討のために行う調査・診断業務は大変重要です。

 

「調査・診断」とは、マンションの現在の劣化状況などを定性的・定量的に調査または測定して、その性能・機能の状態を評価し、将来の影響を予測するとともに必要な基本的な対応を提案することをいいます。

 

調査・診断の目的

●各部位、材料の劣化や損傷の状況を確認し、修繕・改修方法、工事範囲の概要を検討する

●修繕・改修の必要な時期と概算費用を明らかにする

●調査結果に基づいて今後の大規模修繕工事の時期、内容、概算費用の把握を行う

●調査結果に基づいて今後の長期修繕計画を立案する、または見直しを行う

 

調査・診断の精度

マンションにおいて長期修繕計画の作成や大規模修善の検討のために行う調査・診断では、次のようなことがわかれば十分です。

 

●区分所有者、居住者が、自分たちのマンションのスペックを知ること

●現在起きてる不具合や問題点を把握し、今後の維持管理の課題をしること

●不具合や劣化の原因と修繕方法が分かること

●診断結果を区分所有者、居住者が共有できること

 

すなわち、組合員が修繕の方針を決める上で納得できる判断材料が得られれば良いわけで、なんでもかんでも高度な機器を用いるといった精緻な調査を行う必要はありません。

 

調査の進め方

(1)図面調査
・必要な図面が揃っているか?
・現況と図面にくい違いはないか?
(2)修繕履歴調査
・管理状況、不具合発生の傾向をつかむ
(3)アンケート調査
・住戸の様子、共用部分に対する意見を把握する
(4)調査計画の作成
・(1)(2)(3)の結果を元に調査計画を作成する
・最初の段階ではわからないことが多いので、建物の概要や全体の状況を把握してから、必要に応じた調査項目を立てていきます。
(5)現地調査
・現況の仕様やひび割れなど劣化の範囲・数量を把握する
・過去の修善状況を把握する
・目視、触診、作動確認、打検(※1)を中心とした劣化調査を行う
・サンプリングによる物性調査や試験を実施する
   (例)コンクリートの中性化深度調査(※2)
      シーリング物性試験(※3)
      塗膜やタイルの付着強度試験(※4)
      塗膜防水の厚み計測  など
(6)診断・修繕方法検討
(7)詳細調査・試験施工
・不具合部分を部分的に破壊、解体して現況を把握する
・試験施工を行って、どのような仕様で修復可能かを検討する
   (例)漏水が疑われる箇所での水かけ、みず張り試験
      既存塗膜の剥離試験、タイル等の洗浄試験
      管やダクトの閉塞状況調査
      窓サッシの分解調査(部品の確認) など
長期修善計画作成のための調査・診断であれば、(5)の物性調査や(7)詳細調査・試験施工までしなくても良いケースもあります。

調査の限界

大規模なマンションで、全戸の調査を行うのは、居住者協力の負担の大きさを考えると非現実的です。

 

そこで、アンケート結果や住戸の位置やタイプ、しれに給排水管の系統などを考慮して、調査を行う住戸を抽出して調査を行って劣化等の傾向を把握するこtになります。

 

また、足場やゴンドラをかけて調査することは、特別ば事情が無い限りコスト面から考えると非合理的です。外壁のひび割れやタイルの浮きなどは、手と目が届く範囲でサンプリング的な調査を行い、全体を推測することになります。

 

診断結果の表現

総合的な判断の仕方には厳密なルールはありません。

外壁や防水、それぞれの部位について劣化度を判断しランク分けします。

ランク1 劣化はほとんどみられず、本来の性能を発揮している
ランク2  劣化が進みつつあるが、性能的にはまだ十分に期待できる
ランク3 劣化が進行し、性能も衰えつつある。3~4年を目処に耐久性の限界に達すると考えられる
ランク4 耐久性の限界に近いづいており、今後、放置するに足る性能は期待できない
ランク5 耐久性の限界を超えており、他の部分へも悪影響を与えている
ランクA  早急に実施すべき修繕 劣化度ランク5
ランクB  なるべく早く実施すべき修繕(1~2年以内程度) 劣化度ランク3~5
ランクC  近い将来予想される修繕(6~8年後程度) 劣化度ランク2~3
ランクD  改善が望まれる事項 アンケート要望事項

3つの劣化

調査・診断の結果で「劣化度」というと、ひび割れ、腐食、性能低下といった「物理的劣化」を指すことが多いのですが、マンションでは、「社会的劣化」「経済的劣化」があることを忘れてはいけません。

 

●社会的劣化・・・法律改正にともない「既存不適格」となる場合、デザインや性能が時代遅れとなり、ライフスタイルに合わなくなってくることです。

●経済的劣化・・・維持管理のコストが増加し、新築物件などと比較しても市場性評価が低下するなど資産価値が下がることです。

 

これら3つの劣化を防ぐのが計画修繕であり、ただ単に「修繕する」だけでなく、「より良い性能に改善していく」ことを意識していかなければなりません。

 

例えば「アンケート調査」で、断熱性、換気性能、設備機器の改善要求などの住宅性能に対する意見を聞くことで、性能向上につなげるきっかけとなります。調査・診断は、一種のイベントと捉えれば、マンション活性化のチャンスとなります。